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》泣きそうな君に

声をかけると彼女は怒りに満ちた瞳で僕を見上げた。
死なないわ、彼女は意志かたくなにそう言った。
笑う僕を睨みつける。
すごいな、君は死なないのか。
はい、死にません。
不老不死か、当て付けのようにポツリと呟いてみたが、彼女はそれに反応しなかった。
帰る家がないのなら僕の家に来るか、彼女は行きませんと言いながらも、少し距離をあけながらも後をついてきた。
彼女をどうこうするつもりもなかった、彼女もそのようなことを覚っていたのだ。
夜1時を回っていた。
彼女は僕のベッドで寝ていた。
マンションに入るなり、彼女はお金持ちなんですね、と言った。
お金なんて余っているから、食費とスーツと最低限にしか使わない。
自分から聞いたくせに興味なさげに僕がオートロックを解除するのを見ていた。

仕事は?
冴えないサラリーマンだよ。
楽しい?
別に。君は?
冴えない高校生。
楽しい?
特に。

僕はインスタントコーヒーを濃いめにふたつ作ると、彼女が眠るベッドルームに入っていく。
片方のマグカップにはたっぷりのミルクを注いだ。
しばらく寝ていたふりをしていた彼女は いつまでいるんですか、 と痺れを切らしたように呟いた。
そして僕がいる反対側を向いた。
この家は僕の家だ、そしてこの部屋は僕の部屋だ、だから何しようと勝手だろう。
だからと言って、あまり見ないでください。
彼女は大きく息をつくと、それに消されるほど小さな声で何かをぼそりと言った。
…ドキドキします。
僕は聞こえないふりをした。
コーヒー飲むか、
はい、さっきから良い匂いがするって。
ベッドから起き上がる彼女は僕の寝巻をきていた。
この部屋に入った女性は何年ぶりだろう。
ふっと笑いが込み上げる。
向こうの部屋へ行こう。
14階の部屋から見えるそこは、立派とは言えなくても、それなりの夜景は見える。
彼女は歓声とも言えぬ声を発し、息をついた。

どうしてわたしを?
拾ってくれたのかと言いたいのか?
はい
なんとなく
なんとなく ですか
あまり意味はない
そうですか

彼女はほうと息をついた。
彼女は懐かしい匂いがした。
彼女の漂わせる雰囲気は僕が欲しかったものだ。
そうか、
彼女は僕のひとりごとにも反応を示さず、コーヒーを口に運ぶ。
好きなだけいればいい、ここに。
彼女は少し笑うと、ありがとうございます、と言った。
それから彼女は口を開かなかった。
勿論僕も口を開かない。

朝方彼女は一睡もしていないのに、お邪魔しました、と深々と頭を下げた。
空はもう明るくなっていた5時、部屋を出ていく。
本当にありがとうございます。
部屋から出ていく彼女の背中を見て、僕はまた笑みがこぼれた。
こんなに笑ったのはまた久しい。
また来るな、僕は確信した。





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